
結論から申し上げますと、犬が馬刺しを食べることは可能ですが、手放しで推奨できるわけではなく「条件付き」での摂取が基本となります。
馬肉は高タンパクで低脂質、さらに鉄分が豊富という栄養面での大きな魅力がある一方で、生肉として与える場合には細菌感染や寄生虫などの衛生的な不安要素が拭いきれません。
愛犬の健康を第一に考えるのであれば「無理に生で与える必要はない」というのが基本方針です。もし与えるのであれば、何よりも安全性を最優先に考えるべきでしょう。
また、一口に「馬刺し」と言っても、人間が食べるために加工されたものと、犬の食用を前提に衛生管理された製品では、保存状態やリスクの考え方が根本から異なります。人用の馬刺しを安易に分け与えることの危うさについては、後述する注意点の章で詳しく解説します。

馬肉の最大の組成成分は良質なタンパク質です。小型犬から大型犬まで、筋肉の維持や被毛の健康を支える重要な役割を果たしますが、過剰な摂取は腎臓への負担になる可能性も否定できません。
ミネラル成分では鉄分や亜鉛が非常に豊富に含まれています。鉄分は血液中で酸素を運ぶヘモグロビンの材料となり、亜鉛は皮膚のバリア機能をサポートする働きが期待できますが、これらも体質によって合う合わないがあるため、摂取後の体調変化には注意が必要です。
代謝を円滑に進めるためのビタミンB群もバランスよく含まれています。特にビタミンB12などは神経系の健康維持に寄与する要素として知られていますが、あくまで食事全体の補助として考えるのが賢明です。
脂質に関しては、馬肉は他の肉類に比べて低カロリーですが、霜降りの多い部位などは脂質が高くなります。脂質の摂りすぎは膵臓への負担や肥満の原因となるため、与える部位の選定には慎重さが求められます。
栄養が豊富だからといって、主食のバランスを崩すほど与えるのは避けましょう。

生肉にはサルモネラ菌などの細菌や寄生虫が潜んでいる可能性を否定できません。犬の消化液は強力ですが、体調や免疫力が低下している時には食中毒を引き起こし、激しい下痢や嘔吐を招く恐れがあるため、過信は禁物です。
また、人間用の馬刺しセットには、しばしばタレや薬味(ニンニク・ネギ類)が添えられますが、これらは犬にとって中毒を引き起こす猛毒です。加工工程で塩分や保存料が添加されている場合もあり、犬の心臓や腎臓に余計な負担をかける懸念があります。
そして、犬は食べ物をあまり噛まずに飲み込む習性もあります。特に食欲旺盛な犬では、大きな塊のまま飲み込んで喉に詰まらせたり、消化不良を起こしたりする事故が多いため、喉を通るサイズに細かくカットする工夫が不可欠です。
初めて馬肉を食べた際に、お腹が張ったり便が緩くなったりする場合は、消化が追いついていない、あるいは体質的に合わないサインです。異変を感じたら直ちに給与を中止し、元の食事に戻して様子を見る判断力が飼い主には求められます。
消化能力が未発達な子犬や、内臓機能が低下し始めているシニア犬、あるいは持病がある犬に馬刺しを与えるのは非常にリスクが高い行為です。自己判断で新しい食材を取り入れず、必ず事前にかかりつけの獣医師に相談して許可を得るようにしてください。

まずは与える前の準備として、愛犬のコンディションを慎重に確認しましょう。
お腹の調子が安定しており、食欲も旺盛な「体調が万全な日」を選ぶことが大切です。ワクチン接種の前後や、季節の変わり目で体調を崩しやすい時期は避けるようにしてください。
次に、馬肉を愛犬が食べやすい「一口サイズ」にカットします。細菌の増殖を防ぐため、切るのは与える直前に行いましょう。
チワワやポメラニアンなどの小型犬であれば、喉に詰まらせないよう、さらに細かく刻むか、叩いてミンチ状にするのが安全です。大きな塊のまま与えると、丸飲みによる窒息や消化不良の原因となるため注意が必要です。
実際に与える際は、まずは「ごく少量」をおやつとして、あるいは普段のフードへのトッピングとして提供します。初めての食材はアレルギーや消化器への刺激となる可能性があるため、ほんのひとかけらから始め、食べた後の顔色や活動量に変化がないかを観察してください。
食後は、翌日以降の便の状態をしっかりとチェックしましょう。便が緩くなったり、回数が増えたりしなければ、少しずつ量や頻度を調整していきます。
もし生の状態で与えることに少しでも不安や抵抗がある場合は、フライパンでさっと焼く、あるいは茹でて「加熱」して与えても、馬肉の栄養は十分に摂取可能です。

馬肉を日常の食事に取り入れる場合、あくまで「おやつ・トッピング」の範囲内に留め、1日の総摂取カロリーの10%程度を超えないように管理するのが理想的です。
以下の表は、健康な成犬における1日の目安量を示したものです。
| 犬の大きさ(体重目安) | 1日の目安量(トッピング程度) |
|---|---|
| 超小型犬(4kg未満) | 5g〜10g程度 |
| 小型犬(10kg未満) | 15g〜20g程度 |
| 中型犬(25kg未満) | 30g〜50g程度 |
| 大型犬(25kg以上) | 50g〜70g程度 |
初めて与える際は、上記の表よりもさらに少ない量からスタートしてください。
毎日与え続けるのではなく、週に1〜2回程度の「たまの楽しみ」として取り入れるのが、栄養バランスを崩さないコツです。
消化機能が弱い子犬やシニア犬は、この目安量よりもさらに慎重に少なく設定してください。

馬刺しは犬にとって優れたタンパク源となりますが、生食に伴うリスクや個体差による影響を無視することはできません。
与える際は必ず「犬用」として安全に処理されたものを選び、人間用の味付けや薬味が混入しないよう徹底してください。また、愛犬のサイズに合わせたカット、体調の確認、そして何より「少量から始める」という基本を忘れないことが大切です。
少しでも不安がある場合は加熱調理を選択し、健康状態を見極めながら、安全に食の楽しみを広げてあげましょう。