
結論からお伝えすると、犬にゆずを与えてはいけません。ゆずは犬に体調不良を引き起こす可能性がある成分を含んでいるため、わざわざ与える必要のない食材です。
ただし、もし愛犬が床に落ちたゆずの果汁をひと舐めしてしまった程度であれば、過剰にパニックになる必要はありません。タマネギやチョコレートのような即座に命に関わる猛毒ではないため、まずは落ち着いて様子を見ましょう。
特に注意が必要なのは「ゆずの皮」です。果肉や果汁よりも皮の部分に、犬にとって有害な成分が多く含まれています。
基本的には「犬にゆずはNG」という認識を持ち、愛犬の届く場所に置かないよう管理を徹底してください。

なぜ犬にゆずを与えてはいけないのか、その理由は主に成分による中毒リスクと、身体構造上の消化の問題にあります。ここでは具体的な成分やリスクについて解説します。
ゆずの爽やかな香りの元となっている「リモネン」という成分は、犬にとって有害です。リモネンは柑橘類の皮に多く含まれる精油成分で、犬の体ではうまく分解・代謝することができません。
この成分を摂取してしまうと、皮膚のかぶれや嘔吐、場合によっては運動失調などの中毒症状を引き起こす可能性があります。人間にとってはリラックス効果のある香りでも、犬にとっては健康を害する原因となり得ます。
ゆずには「ソラレン」という成分が含まれています。ソラレンには「光毒性」という性質があり、摂取したり皮膚についたりした状態で紫外線を浴びると、皮膚炎や色素沈着を引き起こすリスクが高まります。
レモンやグレープフルーツといった柑橘類よりは含有量が少ないものの、特に皮膚が薄くデリケートな犬種や、短毛犬種などは影響を受けやすいため注意が必要です。
食べてしまうだけでなく、皮の汁が皮膚につくことも避けるべき理由の一つです。
柑橘類特有の酸味成分である「クエン酸」は、適量であれば疲労回復などの効果が期待できますが、犬にとっては胃腸への刺激が強すぎることがあります。
大量にクエン酸を摂取すると、胃酸過多を引き起こし、嘔吐や下痢の原因となります。特に胃腸が敏感な犬では、少量の摂取でも消化器トラブルにつながることがあります。
ゆずにはカリウムが含まれています。健康な犬であれば腎臓から余分なカリウムを排出できますが、腎臓機能が低下しているシニア犬や腎臓病の持病がある犬の場合、高カリウム血症を引き起こすリスクがあります。
不整脈などの心臓トラブルにつながる恐れがあるため、持病のある犬には特に厳格な管理が求められます。

万が一、愛犬がゆずを食べてしまった場合に現れやすい症状を、軽度なものから注意が必要なものまで段階的に解説します。
ゆずを口にした直後、酸味や皮の苦味、あるいは刺激成分によって、大量のよだれが出ることがあります。
また、口の周りをしきりに前足で触ったり、床に顔を擦り付けたりする様子が見られる場合も、口内に不快感があるサインです。
食べてから数時間以内に、嘔吐や下痢といった消化器症状が現れることが一般的です。胃腸が刺激されたことによる一時的なものもあれば、中毒成分による反応の場合もあります。
何度も嘔吐を繰り返す、あるいは下痢が止まらない場合は脱水症状の危険があるため、早急な処置が必要です。
摂取量が多い場合や、体質的に合わなかった場合、ぐったりとして動かなくなることがあります。
また、手足が震える、ふらつくといった神経症状が見られる場合は中毒の可能性が高く、危険な状態です。
中毒症状とは別に、物理的な危険性もあります。ゆずの皮を大きな塊のまま飲み込んだり、種を飲み込んだりした場合、喉や食道、腸に詰まってしまう「腸閉塞」を起こす可能性があります。
特に食道が細いチワワやヨークシャー・テリアなどの超小型犬では、ひとかけらの皮でも詰まるリスクがあります。
呼吸が苦しそうだったり、吐こうとしても吐けない仕草が見られたりする場合は、緊急事態としてすぐに動物病院を受診してください。

「直接食べさせない」こと以外にも、日常生活の中で犬がゆずの成分に触れてしまう場面は意外と多く存在します。ここでは飼い主さんが気をつけるべき具体的なシチュエーションを解説します。
冬の風物詩である「ゆず湯」に、愛犬を一緒に入れるのは避けましょう。
お湯に溶け出したリモネンやソラレンなどの成分が、皮膚を通して吸収されたり、愛犬がお湯を舐めて摂取してしまったりするリスクがあります。また、湯船に浮いているゆずをおもちゃだと思って噛みつき、そのまま皮を誤食する事故も少なくありません。
犬を入浴させる場合は、ゆずが入っていない一番風呂か、犬専用のシャワーを使用してください。
ゆずポン酢やゆず胡椒、ゆず風味の鍋料理など、人間にとって美味しい加工食品も犬にはNGです。
これらにはゆずだけでなく、犬にとって猛毒となるタマネギやネギのエキス、過剰な塩分が含まれていることがほとんどです。
「少しだけなら」という気持ちでの取り分けが、愛犬の健康を大きく損なう原因になります。ゆず風味のお菓子やジュースも、糖分過多となるため与えないでください。
ゆずの香りがするアロマオイルやルームスプレーの使用にも配慮が必要です。犬は嗅覚が鋭いため、強い香りはストレスになります。
さらに、空気中に拡散された精油成分が犬の被毛に付着し、それを毛づくろいで舐めとってしまう可能性があります。犬がいる部屋では、柑橘系の強いアロマの使用は控えたほうが無難です。
庭にゆずの木がある家庭や、散歩コースに果樹がある場合は、落ちているゆずの拾い食いに注意してください。腐敗した果実はカビ毒のリスクも加わり、さらに危険です。
また、料理に使った後のゆずの皮を捨てたゴミ箱を、愛犬が漁らないように蓋付きのものにするなどの対策も重要です。食いしん坊なラブラドール・レトリバーやビーグルなどは特に注意深く見守りましょう。
消化器官が未発達な子犬や、代謝機能が落ちているシニア犬は、成犬よりも少量で症状が出やすくなります。持病のある犬も含め、これらの犬にはより慎重な管理が必要です。

ゆずはNGですが、全ての柑橘類が犬にとって危険というわけではありません。種類によっては、注意点を守れば少量を与えても良いものがあります。
冬によく食べられる温州ミカンなどは、完熟した果肉部分をごく少量であれば、犬に与えても大きな問題になることは少ないです。
犬はミカンを食べなくても体内でビタミンCを合成できますが、ストレスや加齢に伴う消費量の増加を補ったり、果物の甘味を楽しむ「ごちそう」として、指の爪サイズ程度をおやつ代わりにすることもあります。
グレープフルーツは、特定の薬の作用を強めたり弱めたりする成分が含まれているため、投薬中の犬には与えてはいけません。
また、苦味成分が強く、犬が好まないことも多い果物です。
どの柑橘類を与える場合でも、絶対に守るべきルールがあります。
まず、外皮(皮)と薄皮、種は必ず取り除き、果肉部分だけを与えてください。皮や種は消化が悪く、中毒成分や詰まりの原因になります。
柑橘類はあくまで「嗜好品」であり、犬の食事に必要なものではありません。糖分も含まれるため、毎日与えるのは避けましょう。
また、アレルギー体質の犬や、尿石症などの持病がある犬の場合は、微量なミネラルバランスの変化が悪影響を及ぼすこともあります。
迷う場合や持病がある場合は、自己判断で与えず、かかりつけの獣医師に相談することをおすすめします。

犬にゆずを与えてはいけない理由と、日常生活での注意点について解説しました。
ゆずは皮に含まれるリモネンや光毒性のあるソラレン、刺激の強い酸味など、犬の体に負担をかける要素を多く含んでいます。食べてしまった場合は嘔吐や下痢、皮による腸閉塞などのリスクがあります。
冬至のゆず湯や食卓での誤食など、生活の中にある「うっかり」に気をつけて、愛犬を危険から守ってあげてください。