犬にあんずを与えても大丈夫?

飼い主が手に持つあんずを見つめている犬

結論から申し上げますと、完熟したあんずの「果肉」部分だけであれば、犬も少量であれば食べることができます

あんずは独特の甘酸っぱさと香りが魅力の果物ですが、犬に与える際には人間が食べる時以上に慎重な判断が求められます。

最も重要な点は、完熟しているかどうかです。スーパーなどで見かけるオレンジ色に色づいた完熟あんずの果肉は、犬にとって有害な成分が少なく、適切に処理すれば季節のおやつとして楽しむことができます。

一方で、未熟な青い実や、中心にある「種」には、犬の命に関わる毒性成分が含まれているため、絶対に与えてはいけません。散歩中に落ちている実を拾い食いさせないよう、管理を徹底する必要があります。

また、生のあんずは水分を含んでいますが、干しあんずなどのドライフルーツは水分が抜け、糖分が極端に濃縮されています。カロリーも高くなるため、基本的には生の完熟果肉を優先し、ドライフルーツはより一層の注意を持って扱うか、避けたほうが無難です。

あんずに含まれる栄養素と犬への影響

生のあんずが並んでいる様子

あんずには、犬の健康維持に役立つ可能性のある栄養素が含まれています。

ただし、あくまで補助的なものであり、メリットだけでなく過剰摂取による注意点も理解しておくことが大切です。ここでは代表的な成分について解説します。

βカロテンによる抗酸化作用

あんずの鮮やかなオレンジ色は、βカロテンによるものです。βカロテンは体内で必要に応じてビタミンAに変換され、皮膚や粘膜の健康維持をサポートする働きがあります。

また、抗酸化作用もあるため、加齢に伴う体のケアとしてメリットになりうる栄養素と言えます。

カリウムと体内の水分バランス

ミネラルの一種であるカリウムは、体内の余分なナトリウムを排出し、血圧のバランスを整える役割を持っています。また、神経伝達や筋肉の収縮にも関わる重要な成分です。

健康な犬であれば問題ありませんが、カリウムは腎臓で処理されるため、腎臓の機能が低下している犬にとっては負担となる可能性があります。

食物繊維による腸内環境への影響

あんずには水溶性と不溶性の食物繊維が含まれています。適量であれば腸内環境を整え、便通をサポートする効果が期待できます。

しかし、犬は人間ほど食物繊維の消化が得意ではありません。与えすぎると消化不良を起こし、軟便や下痢の原因となることがあります。

特に消化器官が未発達な子犬や、衰えが見られるシニア犬には注意が必要です。

有機酸による疲労回復の可能性

あんず特有の酸味の正体は、クエン酸やリンゴ酸などの有機酸です。これらはエネルギー代謝を助け、疲労回復に役立つとされています。

暑さで食欲が落ちやすい夏場などには、酸味が唾液の分泌を促し、食欲を刺激する効果も期待できるかもしれません。

ただし、胃腸が弱い犬には酸味が刺激になりすぎることがあるため、様子を見ながら与える必要があります。

犬に与えてもいいあんずの量

飼い主の手からおやつをもらっている犬

あんずを犬に与える場合、その量は「ごく少量」に留めるのが鉄則です。あくまでもおやつとしての位置づけであり、栄養補給を目的とするものではありません。

一般的におやつは、1日に必要な総カロリーの10%以内、理想的には5%程度に抑えるのが望ましいとされています。しかし、あんずは糖分や繊維質を含んでいるため、カロリー計算上の上限よりもさらに少なめに見積もる方が安心です。

例えば、体重3kg前後のトイ・プードルやポメラニアンであれば、薄くスライスしたものを1枚か2枚程度、グラム数にして数グラム程度で十分です。一口サイズにカットしたひとかけらを目安にしてください。

体重10kg前後の柴犬やフレンチ・ブルドッグであっても、人間が食べるように丸ごと1個を与えるのは多すぎます。最大でも4分の1個程度に留め、初めて与える際はさらにその半分からスタートするなど、慎重な調整が必要です。

干しあんず(ドライフルーツ)の場合は、生のあんずに比べて重量あたりの糖分やカロリーが数倍になります。もし与えるとしても、米粒程度の大きさに刻んだものをほんの少し舐めさせる程度に留め、日常的なおやつにするのは避けてください。

犬へのあんずの与え方

あんずの種を取り除きながらカットしている様子

愛犬にあんずを与える際は、安全性を最優先に考えた下処理が必要です。そのまま与えるのではなく、ひと手間かけることで誤飲や消化不良のリスクを減らすことができます。

完熟した実を選ぶ

必ず全体がオレンジ色に色づき、触ると少し柔らかさを感じる程度の完熟したあんずを選んでください。少しでも青みが残っている部分や、硬い未熟な実は避けるようにします。

種と茎を完全に取り除く

あんずの中心にある大きな種は、誤飲による窒息や腸閉塞の危険があるだけでなく、毒性成分を含んでいるため最も危険な部位です。

包丁で実を半分に切り、種をきれいに取り除きます。その際、種周辺の果肉が硬い場合や、種の破片が残っていないかを指で確認してください。

また、ヘタや茎の部分も消化に悪いため必ず除去します。

皮をむいて消化を助ける

あんずの皮は薄いですが、犬にとっては消化しにくい繊維質です。特に小型犬や胃腸がデリケートな犬の場合は、皮をきれいにむいて果肉だけの状態にしてから与えると安心です。

細かく刻んで与える

喉に詰まらせないよう、果肉を細かく刻みます。

特に早食いの傾向がある犬では、噛まずに飲み込んでしまうことがあるため、フードプロセッサーでペースト状にするか、ごく細かく刻んでフードにトッピングするのがおすすめです。

犬にあんずを与える際の注意点

種が見えるあんずとあんずのタルトを見つめる犬

あんずは与え方を間違えると重大な健康被害を引き起こす可能性があります。与える前に、毒性やアレルギー、持病との関係について正しい知識を持っておくことが不可欠です。

アミグダリン中毒のリスク

あんずの種や未熟な果実(青い実)には、「アミグダリン」という成分が多く含まれています。これが犬の体内で分解されると、猛毒のシアン化水素(青酸)を発生させます。

万が一、種を噛み砕いて食べてしまったり、未熟な実を大量に食べたりすると、呼吸困難、痙攣、嘔吐、粘膜の充血といった中毒症状が現れる可能性があります。最悪の場合は命に関わるため、種の管理には細心の注意を払ってください。

バラ科アレルギーの可能性

あんずはバラ科の植物です。リンゴ、桃、サクランボ、梨なども同じバラ科に属します。

これらの果物を食べてアレルギー症状が出たことがある犬や、シラカバ花粉症などの素因がある犬では、交差反応によってアレルギーを起こす可能性があります。

初めて与える際は、食べた後に皮膚の痒み、目の充血、口周りの腫れ、下痢などの異常がないか、数時間は愛犬の様子を観察してください。

消化器トラブルへの配慮

食物繊維や糖分、水分を多く含むため、食べ過ぎると一時的にお腹が緩くなることがあります。

特に、普段からお腹を壊しやすい体質の犬には、無理に与える必要はありません。

持病がある犬への影響と判断

すでに何らかの病気を治療中の犬や、健康診断で数値を指摘されている犬の場合、あんずを与えることが体に負担をかける可能性があります。

まず、糖尿病や肥満の犬には、果糖による血糖値の上昇やカロリー摂取が治療の妨げになるため与えません。次に、腎臓病や心臓病の薬を服用している犬では、あんずに含まれるカリウムの排出がうまくいかず、高カリウム血症などの不調を招く恐れがあります。

さらに、膵炎の既往がある犬や、お腹が弱い犬にとっては、糖分や食物繊維が消化の負担となり、症状の再発や悪化の引き金になることも考えられます。

持病がある場合は自己判断せず、必ずかかりつけの獣医師に相談してから与えるようにしてください。

加工品の砂糖や添加物

人間用に加工された「あんずのシロップ漬け(缶詰)」や「あんずジャム」は、大量の砂糖が使われています。

これらは犬にとって糖分過多であり、肥満や歯周病、糖尿病のリスクを高めるため、与えてはいけません。

まとめ

食器の前に座っている犬

犬にあんずを与える際は、完熟した生の果肉を、種や皮を取り除いてからごく少量与えることが基本です。未熟な実や種に含まれるアミグダリンの毒性には、十分な警戒が必要です。

βカロテンなどの栄養素が含まれていますが、リスクを冒してまで積極的に与えるべき食材ではありません。

愛犬の体調や持病の有無を考慮し、あくまで季節の風味を少しだけお裾分けする程度の楽しみ方で留めておくのが、飼い主としての賢明な判断と言えるでしょう。