「動く宝石」とも称される美しい被毛を持つヨークシャーテリアの平均寿命は、14年から16年ほどとされています。犬全体の平均寿命が約14歳であることや、他の小型犬と比較しても、比較的長生きな犬種に分類されます。
しかし、これはあくまで平均的な数値であり、飼育環境や日々のケア、そして個体差によって大きく変わってきます。
日本で人気のある他の小型犬種と平均寿命を比較してみましょう。例えば、トイ・プードルは約15.3歳、ミニチュア・ダックスフンドは約14.8歳、チワワは約13.9歳というデータがあります。
これらの犬種と比較しても、ヨークシャーテリアの寿命は遜色なく、犬種として長寿の素質を持っていることがわかります。
公式なギネス世界記録ではありませんが、イギリスでは26歳まで生きたとされるヨークシャーテリアの記録があります。
また、日本国内でも20歳を超えるご長寿の報告は珍しくありません。こうした例は、適切な健康管理と深い愛情があれば、平均寿命を大きく超えて共に過ごせる可能性を示しており、多くの飼い主にとって希望となります。
避妊・去勢手術は、望まない繁殖を防ぐだけでなく、愛犬の健康にも良い影響を与えることが研究で示されています。
手術によって、メスでは乳腺腫瘍や子宮蓄膿症、オスでは精巣腫瘍や前立腺肥大といった、生殖器関連の病気のリスクを大幅に減らすことができます。これらの病気は命に関わることも少なくないため、結果として寿命を延ばす一因になると考えられています。
手術の時期やメリット・デメリットについては、かかりつけの獣医師とよく相談することが大切です。
愛犬が人間でいうと何歳くらいなのかを知ることは、その時々に必要なケアを理解する上で非常に役立ちます。成長のスピードは犬と人間では大きく異なります。
犬の年齢は、単純に「実年齢×7」というわけではありません。特に小型犬は最初の1年で急激に成長し、その後は緩やかに歳を重ねていきます。
ヨークシャーテリアの年齢 |
人間の年齢(目安)
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1歳 | 17歳 |
2歳 | 24歳 |
3歳 | 28歳 |
5歳 | 36歳 |
7歳 | 44歳 |
10歳 | 56歳 |
13歳 | 68歳 |
15歳 | 76歳 |
16歳 | 80歳 |
この表からもわかるように、ヨークシャーテリアは7歳頃から中年期、10歳を超えると高齢期、いわゆるシニア期に入ると考えられます。
一般的に7歳を過ぎたあたりからがシニア期の入り口とされますが、個体差もあります。シニア期に入ると、様々な老化のサインが見られるようになります。例えば、白髪が増える、毛艶がなくなる、目が白っぽく濁る(白内障の可能性)といった外見の変化が現れます。
また、寝ている時間が増える、散歩に行きたがらない、段差を嫌がるなどの行動の変化も兆候の一つです。食欲の低下や飲水量の変化、咳が増えるといった体調の変化は病気のサインかもしれないため、注意深く観察しましょう。
ただ長生きするだけでなく、元気で快適な時間を長く過ごす「健康寿命」を延ばすことが重要です。そのためには、年齢に合わせたケアが不可欠です。
若い頃は十分な運動と栄養で丈夫な体作りを、成犬期は肥満を防ぎ、適切な社会性を育むことが大切です。そしてシニア期には、消化しやすく栄養価の高い食事への切り替えや、関節に負担をかけない程度の運動、定期的な健康診断の頻度を上げるなどの配慮が必要になります。
ライフステージに合わせたケアを丁寧に行うことが、愛犬の健康寿命を延ばす鍵となります。
日々の暮らしの中に潜む何気ない習慣が、愛犬の寿命を縮めてしまう可能性があります。飼い主が意識することで防げる要因も少なくありません。
犬も人間と同じように、ストレスは心身の健康に悪影響を及ぼします。長時間の留守番や家族とのコミュニケーション不足、騒々しい環境などはストレスの原因となり得ます。
また、フローリングなど滑りやすい床での生活は、足腰に常に負担をかけ、関節の病気を引き起こす一因になります。ヨークシャーテリアの華奢な骨格を考えると、床にカーペットを敷くなどの対策が望ましいでしょう。
ヨークシャーテリアは小型犬ですが、テリア種としての活発な気質を持っています。運動不足は、ストレスの蓄積や肥満に直結します。肥満は様々な病気のリスクを高めるため、結果的に寿命を縮めることにつながります。
毎日の散歩は、単なる排泄のためだけでなく、心身のリフレッシュや筋力維持のために非常に重要です。
食事は健康の基本です。人間の食べ物を与えることは絶対に避けるべきです。塩分や糖分、脂肪分が過剰であるだけでなく、犬にとって中毒となる成分(玉ねぎ、チョコレート、ぶどう等)が含まれている可能性があります。
また、年齢や活動量に合わないフードを与え続けることも、栄養バランスの乱れや肥満を招き、健康を損なう原因となります。
肥満は「万病のもと」と言われるほど、犬の健康に深刻な影響を与えます。体重が増えることで、心臓や関節への負担が増大し、心臓病や膝蓋骨脱臼(パテラ)などの持病を悪化させるリスクが高まります。さらに、糖尿病や呼吸器疾患など、様々な病気を引き起こすことが知られています。
愛犬の体を触って肋骨が確認できるかなど、定期的に体型をチェックし、適正体重を維持することが長寿には不可欠です。
犬種ごとにかかりやすい病気、いわゆる「好発疾患」があります。ヨークシャーテリアが注意すべき病気を知り、早期発見・早期治療に繋げることが健康寿命を延ばす鍵です。
高齢の小型犬に多く見られる心臓病の一つです。心臓の左心房と左心室の間にある「僧帽弁」という弁がうまく閉じなくなり、血液が逆流してしまう病気です。
初期は無症状ですが、進行すると「ゼーゼー」という乾いた咳が出たり、運動を嫌がったりするようになります。重症化すると肺に水が溜まる肺水腫を引き起こし、命に関わります。
完治は難しく、内科的な治療で病気の進行をコントロールしていくことが主となります。
後ろ足の膝にあるお皿の骨(膝蓋骨)が、正常な位置からずれてしまう状態を指します。ヨークシャーテリアは遺伝的にこの病気を発症しやすい犬種です。
症状としては、歩いている時に急に後ろ足を挙げたり、スキップのような歩き方をしたりします。軽度であれば日常生活に支障がないこともありますが、重度になると痛みや歩行困難を引き起こし、外科手術が必要になる場合もあります。肥満は膝への負担を増大させるため、体重管理が非常に重要です。
3歳以上の犬の約8割が罹患しているとも言われる非常に身近な病気です。歯垢の中の細菌が歯茎に炎症を起こし、進行すると歯を支える骨を溶かしてしまいます。
口の痛みから食事が摂れなくなるだけでなく、歯周病菌が血管を通って全身に広がり、心臓病や腎臓病といった他の深刻な病気を引き起こすことも分かっています。毎日の歯磨きが最も効果的な予防法です。
脳の中の「脳室」と呼ばれる空間に、脳脊髄液という液体が過剰に溜まってしまい、脳を圧迫する病気です。ヨークシャーテリアは、チワワやマルチーズなどと共に、先天的に発症しやすい犬種として知られています。
症状としては、元気がない、学習能力が低い、ぐるぐる回る、痙攣発作などが挙げられます。早期に発見し、内科治療や外科手術で脳への圧力を下げることが重要になります。
本来、腸から吸収した栄養分や毒素を運ぶ「門脈」という血管が、解毒を行う肝臓を迂回(シャント)して全身の血管に直接繋がってしまう先天性の病気です。
ヨークシャーテリアは好発犬種の一つです。解毒されないアンモニアなどの毒素が全身、特に脳に回ることで、食後の元気消失、よだれ、ふらつき、痙攣発作といった神経症状(肝性脳症)を引き起こします。食事療法や内科治療、外科手術による治療が行われます。
尿に含まれるミネラル成分が結晶化し、腎臓、膀胱、尿道などの泌尿器で結石となる病気です。頻尿、血尿、排尿時に痛がるなどの症状が見られます。結石が尿道を完全に塞いでしまうと尿毒症を引き起こし、命の危険があります。
飲水量が少ないことや、食事のミネラルバランスが原因となることが多く、食事管理や十分な水分摂取が予防に繋がります。
愛犬に一日でも長く、健康でいてもらうためには、飼い主の日々の丁寧なケアが欠かせません。ここでは長寿に繋がる具体的な秘訣を解説します。
食事は健康の土台です。成長期の子犬には、丈夫な体を作るための高タンパク・高カロリーな子犬用フードを、活動的な成犬期には、適正体重を維持できる栄養バランスの取れた成犬用フードを選びましょう。
そして、7歳頃からのシニア期には、消化が良く、心臓や関節の健康をサポートする成分が配合されたシニア用フードに切り替えることが推奨されます。フードの切り替えは、1週間ほどかけてゆっくりと行いましょう。
ヨークシャーテリアは室内での活動だけでも運動量をある程度満たせますが、心身の健康のためには毎日の散歩が理想的です。1回15分から20分程度、1日2回が目安です。
散歩は、他の犬や人と触れ合う社会化の機会にもなります。ただし、シニア期に入ったら、その日の体調に合わせて距離や時間を調整し、関節に負担をかけすぎないように注意が必要です。
全身の健康に影響を及ぼす歯周病を予防するため、口腔ケアは非常に重要です。理想は毎日の歯磨きです。犬用の歯ブラシや歯磨きシートを使い、まずは口に触れられることに慣れさせることから始めましょう。
歯磨きが難しい場合は、歯磨き効果のあるガムやおもちゃ、水に混ぜるタイプのデンタルケア用品などを活用するのも一つの方法です。定期的に動物病院で口の中をチェックしてもらうことも大切です。
ヨークシャーテリアが安全で快適に過ごせる環境を整えましょう。特に、滑りやすいフローリングは膝蓋骨脱臼のリスクを高めるため、カーペットやマットを敷くなどの対策が必須です。
また、気温の変化に敏感な犬種なので、夏は熱中症、冬は寒さ対策として、エアコンで室温を一定に保つように心がけましょう。安心して休める静かな寝床を用意することも、ストレス軽減に繋がります。
言葉を話せない愛犬の健康を守るためには、定期的な健康診断が不可欠です。若くて健康なうちは年に1回、シニア期に入ったら半年に1回の頻度で受診することが推奨されます。
病気は初期段階では症状が現れにくいため、定期健診によって早期発見・早期治療に繋げることができます。血液検査や尿検査、レントゲン検査などを含めた総合的なチェックで、目に見えない体の変化を捉えることが長寿の鍵となります。
ヨークシャーテリアは、適切な飼育管理と深い愛情を注ぐことで、平均寿命である14年から16年、あるいはそれ以上に長く、私たちの人生を豊かにしてくれるパートナーとなり得ます。
日々の食事や運動、口腔ケアといった基本的な健康管理はもちろんのこと、滑りにくい床材を選ぶなどの環境整備や、定期的な健康診断を欠かさないことが重要です。
また、僧帽弁閉鎖不全症や膝蓋骨脱臼といった、この犬種がかかりやすい病気について正しい知識を持ち、日頃から愛犬の小さな変化に気づけるように注意深く観察することが、病気の早期発見に繋がり、結果として健康寿命を延ばすことに繋がります。
愛犬との一日一日を大切に過ごし、健やかで幸せな時間をできるだけ長く共に歩んでいきましょう。