ポメラニアンの美しい被毛を維持するためには、まずその特性を理解することが不可欠です。なぜ毎日のブラッシングが推奨されるのか、その理由が被毛の構造に隠されています。
ポメラニアンの被毛は、犬種でいえばシベリアンハスキーや柴犬などと同じ「ダブルコート」と呼ばれる二層構造になっています。
これは硬くてしっかりとした毛質の「オーバーコート(上毛)」と、その下に生えている綿毛のように柔らかい「アンダーコート(下毛)」で構成されています。オーバーコートは外部の刺激や紫外線から皮膚を守る役割を、アンダーコートは体温を調節するために保温や保湿の役割を担っています。
ダブルコートの犬種には、年に2回、被毛が生え変わる「換毛期」があります。主に春と秋に訪れ、季節の変化に対応するためにアンダーコートがごっそりと抜け落ちます。特にポメラニアンはこの抜け毛が非常に多く、この時期にケアを怠ると、抜け毛が他の毛と絡み合ってしまい、様々な皮膚トラブルの原因となります。
ポメラニアンのふわふわとした魅力的なスタイルは、この豊富なアンダーコートによって作られています。
しかし、この柔らかいアンダーコートは非常に絡まりやすく、放置するとすぐにフェルト状の硬い毛玉になってしまいます。毛玉は見た目が悪いだけでなく、皮膚の通気性を著しく悪化させ、蒸れることで皮膚炎や雑菌の繁殖を引き起こす原因ともなります。
そのため、日々のブラッシングで抜け毛を取り除き、毛の絡みを防ぐことが、ポメラニアンの美しさと健康を守る上で極めて重要なのです。
ポメラニアンの繊細な被毛をケアするためには、用途に応じて複数の道具を使い分けることが理想的です。ここでは、ブラッシングに必須のブラシと、あると便利なアイテムをご紹介します。
「く」の字に曲がった細い金属製のピンが密集しているブラシです。主な役割は、アンダーコートの不要な抜け毛や、でき始めの小さな毛玉を効率的に取り除くことです。力を入れすぎると皮膚を傷つけてしまう可能性があるため、手首のスナップを利かせ、皮膚に対して平行に、優しく撫でるように使用するのがコツです。
毛をかき分けて根元からとかす際に絶大な効果を発揮します。
ピンの先端が丸く加工されており、皮膚への刺激が少ないブラシです。主にブラッシングの初期段階で、オーバーコートのもつれを優しくほぐしたり、全体の毛並みを整えたりするのに使用します。皮膚へのマッサージ効果も期待でき、スリッカーブラシを嫌がる犬でも受け入れやすい傾向があります。
仕上げや日常の軽いお手入れに適しています。
ブラッシングの最終チェックに使用する金属製の櫛です。目が粗い部分と細かい部分が一体になっているタイプが一般的です。
ブラシを通した後にコームを全身に通し、根元から毛先まで引っかかる場所がないかを確認します。毛玉が残っているとコームがそこで止まるため、見逃しを防ぐことができます。目や口の周り、足先といったデリケートで細かい部分のお手入れにも重宝します。
必須ではありませんが、ブラッシングをよりスムーズで効果的にするために、ブラッシングスプレーの使用を推奨します。
乾燥した被毛に直接ブラシをかけると、静電気が発生しやすく、毛が絡まったり切れたりする原因になります。スプレーで毛をわずかに湿らせることで、静電気を防ぎ、ブラシの通りを滑らかにします。保湿成分や毛を保護する成分が含まれているものもあり、被毛を健やかに保つ助けとなります。
正しい手順でブラッシングを行うことで、愛犬への負担を減らし、効率的に美しい被毛を保つことができます。焦らず、一つ一つの工程を丁寧に行いましょう。
まず、ブラッシングを始める前に、被毛全体が軽く湿る程度にブラッシングスプレーを吹きかけます。
特に毛が密集している部分や絡みやすい部分には少し多めにスプレーしましょう。これにより、静電気の発生を抑え、この後の工程でブラシがスムーズに通るようになります。被毛のダメージを軽減する効果も期待できます。
次に、皮膚に優しいピンブラシを使って、全身の毛を大まかにとかしていきます。ここでは毛の流れに沿って、表面の大きなもつれや絡みをとることを意識してください。いきなり根元からとかそうとせず、まずは毛先から優しくほぐし、徐々に根元に向かってブラシを進めていくのがポイントです。ここで無理に力を入れる必要はありません。
全身のもつれがある程度ほぐれたら、スリッカーブラシに持ち替えてアンダーコートの抜け毛を取り除いていきます。片方の手で毛をかき分け、皮膚が見える状態(スライス)にしてから、毛の根元にスリッカーブラシを当て、毛先に向かって優しくとかします。
これを少しずつ場所をずらしながら全身に行います。特に毛玉ができやすい耳の後ろ、脇の下、お腹、内股は念入りに行いましょう。常に力を入れすぎず、皮膚を傷つけないように注意してください。
最後に、仕上げとしてコームを全身に通します。毛の根元から毛先まで、スムーズにコームが通るかを確認しましょう。
もし引っかかる場所があれば、そこに毛玉やもつれが残っている証拠です。無理にコームで引っ張らず、その部分を再度スリッカーブラシや指で優しくほぐしてから、もう一度コームを通します。顔周りなどのデリケートな部分は、コームの細目を使って慎重にとかしてあげましょう。
愛犬がブラッシングを嫌がるのには必ず理由があります。その原因を探り、正しい方法で少しずつ慣らしていくことが大切です。無理強いはせず、愛犬のペースに合わせて進めましょう。
まず、愛犬が抱いている「ブラシは怖いもの、痛いもの」というマイナスのイメージを払拭することから始めます。ブラシを床に置き、自分から匂いを嗅いだり近づいたりしたら褒めておやつをあげましょう。
次に、ブラシのピンが当たらない柄の部分で体を優しく撫でます。これをクリアできたら、ブラシの背の部分で撫でてみます。このように段階を踏み、ブラシが体に触れても良いことがあると学習させることが重要です。
最初から完璧に全身のブラッシングをしようとする必要はありません。まずは背中など、犬が比較的に触られやすい場所を、ブラシで一瞬とかすだけにして、「よくできたね」とたくさん褒めてご褒美をあげます。
これを毎日繰り返し、少しずつとかす時間や範囲を広げていきましょう。「楽しい時間はすぐに終わってしまう」と犬に思わせることが、次への意欲に繋がります。
ブラッシングに集中しすぎてしまう犬には、他の楽しいことで気をそらす方法も有効です。例えば、家族に協力してもらい、ペースト状のおやつを舐めさせている間に、素早くブラッシングを行うのも一つの手です。
また、大好きなおもちゃで遊んだ後など、心身ともにリラックスしているタイミングを狙うのも良いでしょう。ブラッシングを特別なことと意識させない工夫が大切です。
そもそもブラッシングが痛いために嫌がっている可能性も考えられます。毛玉がある場合、それを無理にブラシで引っ張ると強い痛みを与えてしまい、トラウマの原因になります。小さな毛玉は指で優しくほぐし、それでも取れない場合はスリッカーブラシの角を使って少しずつとかします。大きなフェルト状の毛玉は無理に取ろうとせず、トリミングサロンでプロに相談しましょう。
日頃から力を入れすぎず、優しいブラッシングを心がけることが最も重要です。
ポメラニアンをブラッシングする頻度の目安は毎日です。一見大変に思えるかもしれませんが、美しい被毛と健康な皮膚を維持するためには、日々のケアが欠かせません。
ポメラニアンの特徴であるダブルコートの被毛、特に柔らかいアンダーコートは非常に絡まりやすく、1日ケアを怠るだけでも小さな毛玉ができ始めてしまいます。この小さな毛玉を放置すると、すぐに大きくて硬い毛玉に成長し、皮膚の通気性を妨げ、皮膚炎などのトラブルを引き起こす原因となります。
毎日ブラッシングを行うことで、その日の抜け毛をきちんと取り除き、毛が絡まるのを未然に防ぐことができます。
また、毎日のブラッシングは、ただ毛並みを整えるだけではありません。愛犬の体を隅々まで触ることで、皮膚の異常やしこり、怪我などを早期に発見する貴重な機会にもなります。さらに、ブラシによる適度な刺激は皮膚の血行を促進するマッサージ効果も期待できます。
何よりも、飼い主が優しく体に触れるブラッシングの時間は、犬にとって安心感を得られる、大切なコミュニケーションの時間となります。どうしても時間が取れない場合でも、最低でも2〜3日に1回は行うように心がけ、特に抜け毛が急増する春と秋の換毛期には、毎日欠かさず丁寧なブラッシングを行いましょう。
ポメラニアンの魅力的で豊かな被毛は、その構造上、日々の丁寧なブラッシングが不可欠です。二層構造のダブルコートはアンダーコートが絡まりやすく、毛玉や皮膚トラブルを防ぐためには、スリッカーブラシやピンブラシ、コームといった道具を正しく使い分けることが重要です。
ブラッシングの手順を守り、毛先から根元へと優しくケアを進めることで、愛犬への負担を最小限に抑えられます。もし愛犬がブラッシングを嫌がる場合は、決して無理強いせず、おやつを使ったり短い時間から始めたりして、「ブラッシングは楽しい時間」だと教えてあげましょう。
毎日のブラッシングは、見た目の美しさを保つだけでなく、皮膚の健康チェックや病気の早期発見にも繋がります。そして何より、飼い主と愛犬との信頼関係を深めるための、かけがえのないコミュニケーションの時間となるはずです。