
ゴールデンレトリバーは、あらゆる病気に弱い犬種というわけではありません。ただし、がん・腫瘍をはじめ、犬種との関連を考慮したい健康問題が複数あります。
一方、股関節・肘関節の病気や胃拡張・胃捻転症候群など、大型犬として注意したい病気もあります。すべてを「ゴールデンレトリバー特有の病気」と考えず、関連の強さを分けて理解することが大切です。
がん・腫瘍は、ゴールデンレトリバーで特に注意したい健康問題のひとつです。なかでも血管肉腫は犬種との関連が知られており、米国ではゴールデンレトリバーを対象とした大規模な追跡研究も行われています。
血管肉腫は血管を構成する細胞から発生する悪性腫瘍で、脾臓や心臓などの体内にできることがあります。体内の腫瘍から出血すると、元気がなくなる、歯茎が白っぽくなる、突然倒れるなどの変化がみられる場合があります。
一度元気がなくなったあとに回復するなど、症状が一時的に目立たなくなるケースもあります。そのため、急な脱力やふらつき、普段と明らかに違う元気のなさを繰り返す場合も、早めに動物病院へ相談しましょう。
また、ゴールデンレトリバーではリンパ腫も研究されています。ただし、犬種との関連については地域によって研究結果が一致しておらず、「ゴールデンレトリバーは一律にリンパ腫になりやすい」とまではいえません。
体にしこりが見つかっても、すべてが悪性腫瘍とは限りません。良性の腫瘍や炎症などでも腫れやしこりは生じるため、見た目や触った感触だけでがんかどうかを判断せず、気になる変化は獣医師に確認してもらうことが重要です。
ゴールデンレトリバーでは、股関節形成不全や肘関節形成不全も注意したい病気です。どちらも繁殖犬の健康評価で重視される整形外科疾患で、遺伝的な要因と環境要因が複雑に関係します。
股関節形成不全では股関節が正常に形成されず、関節の不安定さや変形につながります。肘関節形成不全は肘の発達異常をまとめた呼び方で、成長に伴って関節炎や痛みが生じる場合があります。
立ち上がるのをためらう、運動後に動きたがらない、歩き方が変わった、前脚や後ろ脚をかばうといった変化は、動物病院へ相談するきっかけになります。
ただし、歩き方の異常にはけがや靱帯の病気、神経疾患などさまざまな原因があります。「大型犬だから股関節形成不全」「太っているから発症した」と単純に判断することはできません。
適正体重を保つことは関節への余分な負担を減らすために重要ですが、体重管理だけで股関節形成不全や肘関節形成不全を完全に防げるわけではありません。
ゴールデンレトリバーでは、アトピー性皮膚炎や外耳炎にも注意が必要です。犬アトピー性皮膚炎については犬種素因が報告されていますが、その傾向には地域差も確認されています。
皮膚を繰り返しかく、足先を頻繁になめる、皮膚が赤くなる、毛が薄くなるといった変化がみられる場合があります。ただし、かゆみの原因はアトピー性皮膚炎だけでなく、寄生虫や感染症などさまざまです。
外耳炎については、英国の大規模な診療データでゴールデンレトリバーの診断リスク上昇が報告されています。耳を頻繁にかく、頭を振る、耳が赤い、耳垢やにおいが普段と違うといった変化が主な相談のきっかけです。
ゴールデンレトリバーは耳が垂れていますが、「垂れ耳だから外耳炎になる」と単一の原因で説明することはできません。アレルギーや耳道内の環境、感染など複数の要因を確認する必要があります。
ゴールデンレトリバーでは、遺伝性眼疾患として知られる色素性ぶどう膜炎や進行性網膜萎縮(PRA)に注意したいところです。この2つは特徴や検査方法が異なるため、分けて理解しておきましょう。
色素性ぶどう膜炎は、ゴールデンレトリバーとの関連が非常に強い眼疾患です。初期には外から分かる症状がほとんどない場合がありますが、進行すると目の充血や涙、目を気にするしぐさなどが現れることがあります。
さらに進行すると緑内障を併発し、痛みや視覚障害につながる場合があります。家庭で異常が分からない段階でも発見されることがあるため、眼科検査には目の状態を直接評価する役割があります。
PRAは、網膜が徐々に変性して視力が低下していく遺伝性眼疾患の総称です。暗い場所で動きにくくなる、物にぶつかるようになるなど、視覚の変化が気づくきっかけになる場合があります。
ゴールデンレトリバーでは、prcd-PRA、GR-PRA1、GR-PRA2などについてDNA検査を利用できます。ただし、DNA検査と眼科検査は目的が異なり、DNA検査だけで現在の目の状態やすべてのPRAを判断できるわけではありません。
甲状腺機能低下症も、ゴールデンレトリバーとの関連を考慮したい病気です。英国の大規模診療データでは犬種との関連が確認されていますが、この結果を日本のゴールデンレトリバーの発症率として扱うことはできません。
甲状腺ホルモンが不足することで、以前より活動性が低くなる、体重が増える、毛が薄くなる、皮膚の状態が変わるといった症状がみられることがあります。
ただし、これらはほかの病気や加齢でもみられる変化です。症状だけで甲状腺機能低下症と判断することはできず、診断には血液検査などを用いて総合的に評価する必要があります。
大動脈弁下狭窄症(SAS)は、心臓から大動脈へ血液が送り出される通路のうち、大動脈弁より下側が狭くなる心疾患です。ゴールデンレトリバーでは犬種素因が報告されています。
軽度では目立った症状がなく、健康診断などで心雑音を指摘されることが発見のきっかけになる場合があります。程度が重い場合には、運動を嫌がる、運動中に力が抜ける、失神するといった異常がみられることがあります。
心雑音があるから必ずSASというわけではなく、診断には必要に応じて心臓超音波検査などが行われます。また、SASとの関連があることを理由に「ゴールデンレトリバーは心臓病全般になりやすい」と広げて考えるのも適切ではありません。
胃拡張・胃捻転症候群はゴールデンレトリバー特有の病気ではありませんが、大型犬であるゴールデンレトリバーでも注意したい緊急疾患です。
胃の中にガスや液体がたまって大きく膨らみ、さらに胃がねじれることがあります。血流や呼吸に重大な影響が及ぶため、発症すると短時間で全身状態が悪化する可能性があります。
腹部が急に膨らむ、落ち着かず何度も体勢を変える、よだれが増える、吐こうとしているのに何も出ないといった変化は重要なサインです。急にぐったりしたり倒れたりする場合もあります。
このような症状がある場合は、胃捻転かどうかを家庭で確かめようとせず、速やかに動物病院へ連絡して受診してください。
食事方法や食べる速さ、体格、家族歴など複数の要因がリスクに関係すると考えられています。リスクが高い犬では予防的な胃固定術が検討されることもありますが、予防方法については個別に獣医師と相談する必要があります。

ゴールデンレトリバーにはDNA検査で確認できる遺伝性疾患があります。ただし、遺伝が関係する病気のすべてをDNA検査だけで判断できるわけではありません。
また、生まれた時点から存在する「先天性」と、親から受け継いだ遺伝的要因が関係する「遺伝性」は同じ意味ではありません。検査の目的と限界を理解し、必要な健康情報を組み合わせて考えることが大切です。
ゴールデンレトリバーでは、PRAの原因となる遺伝子変異のうち、prcd-PRA、GR-PRA1、GR-PRA2などについてDNA検査を利用できます。
DNA検査では、検査対象となっている特定の遺伝子変異について、その犬がどのような遺伝子型を持っているかを調べられます。繁殖時に組み合わせを考えるための情報としても利用されています。
一方、検査結果はその犬の健康状態全体を保証するものではありません。検査対象ではない遺伝子変異や別の眼疾患まで否定できるわけではなく、実際の目の状態を確認するには眼科検査が必要です。
股関節形成不全や肘関節形成不全にも遺伝的要因が関係していますが、「遺伝性の病気だからDNA検査をすれば将来発症するか分かる」という病気ではありません。
これらは複数の遺伝的要因と環境要因が関係する複雑な疾患です。繁殖犬の評価では、股関節や肘関節を画像で確認する方法が用いられています。
また、犬自身の検査結果だけでなく、親犬や近親犬にどのような病気がみられたかという家族歴も健康リスクを考える材料になります。DNA検査は、こうした健康情報の一部として利用することが重要です。
ゴールデンレトリバーの子犬を迎える際は、DNA検査の結果だけでなく、親犬の股関節・肘関節・眼・心臓などの健康情報も確認しておきたいところです。
米国のGolden Retriever Club of America(GRCA)では、繁殖犬について股関節、肘関節、眼、心臓の健康検査を重視しています。
これは米国の犬種団体による繁殖上の指針であり、日本国内のゴールデンレトリバーすべてに適用される統一基準や法的義務ではありません。それでも、親犬の健康状態を確認する際の参考になります。
可能であれば、検査を受けたかどうかだけでなく、実際の検査結果や親犬・近親犬の健康情報も確認しましょう。ただし、両親が検査済みであっても、子犬が将来すべての病気を避けられるという保証にはなりません。

愛犬に異変があったときは、症状から病名を当てようとするのではなく、急激な変化か、症状が続いているか、繰り返しているか、悪化しているかなどから次の行動を考えることが大切です。
特に呼吸や意識、全身状態に関わる急な異常では、病名が分からなくても緊急性が高い場合があります。
突然倒れる、明らかに呼吸が苦しそう、意識の状態がおかしい、立てないほど急激に弱るといった変化がある場合は、様子を見続けず動物病院へ連絡しましょう。
腹部が急に膨らみ、何度も吐こうとしているのに何も出ない状態も緊急性の高い症状です。胃拡張・胃捻転症候群などが疑われるため、速やかな診察が必要になります。
また、血管肉腫などによる体内出血でも突然の虚脱や全身状態の悪化が起こることがあります。ただし、これらの症状にはほかにも多くの原因があるため、家庭で病名を特定することより受診を優先してください。
けいれんや発作を起こしたからといって、それだけで「てんかん」と診断することはできません。代謝異常や中毒、脳の病気など、てんかん以外にも発作を起こす原因があります。
発作中は犬を強く押さえようとせず、周囲の家具や物を離して安全を確保します。口の中へ手や物を入れたり、顔を口元へ近づけたりすると、無意識にかまれてけがをする危険があります。
発作が始まった時刻を確認して時間を計り、安全にできる場合はスマートフォンなどで動画を撮影しておくと、診察時の情報として役立つことがあります。
初めて発作を起こした場合は、短時間で止まり普段どおりに戻ったように見えても、獣医師の診察につなげましょう。
発作が5分を超えて続く場合は、生命に関わる状態になる可能性があるため救急受診が必要です。ただし、「5分未満なら安全」という意味ではありません。
短時間の発作でも24時間以内に複数回繰り返す場合や、意識が十分に戻らないまま次の発作が始まる場合も緊急性が高いため、速やかに動物病院へ連絡してください。
緊急症状でなくても、変化が続く、繰り返す、徐々に悪化する、普段と明らかに違うという場合は早めの相談を考えましょう。
新しくできたしこりや大きくなってきたしこり、繰り返す咳やえづき、歩き方の変化、皮膚のかゆみ、耳のにおいや耳垢の変化、目の充血や涙なども診察につながるサインです。
特に咳とえづきは飼い主から見ると区別しにくいことがあります。呼吸器や心臓、消化器など原因はさまざまであるため、繰り返す場合は動画を撮影して診察時に見せる方法もあります。
年齢を重ねた犬では「高齢だから動きたがらない」「老化だから体重が変わった」と考えてしまうことがありますが、病気による変化が隠れている場合もあります。年齢だけを理由に異変を片づけないことが大切です。

ゴールデンレトリバーが注意したい病気のすべてを、生活管理だけで予防できるわけではありません。一方、日常的な健康管理と体調変化への気づきは、リスク管理や早期発見につながります。
適正体重を維持し、年齢や健康状態に合った運動を続けることも健康管理の基本です。ただし、適切な生活をしていればがんや遺伝性疾患を必ず防げるという意味ではありません。
日常的に体へ触れ、普段の状態を知っておくと小さな変化に気づきやすくなります。しこりの有無だけでなく、皮膚、耳、目、歩き方、食欲、活動性なども普段から観察しておきましょう。
体重も重要な健康情報です。見た目だけでは緩やかな増減に気づきにくいため、定期的に測定して変化を把握しておくと診察時の情報として役立ちます。
家庭での観察は病名を見つけるためのものではありません。「いつから」「どのように」「どの程度変わったか」を把握し、異変を早く獣医師へ伝えるために行うことが目的です。
病気に備えてペット保険を検討する場合も、補償される病気や既往症の扱い、待機期間などは商品によって異なります。病気になった後では加入や補償に制限が生じる場合があるため、契約条件を事前に確認しておきましょう。
健康診断は、ゴールデンレトリバーだから全頭が同じ検査を同じ頻度で受けるというものではありません。必要な検査や受診間隔は、その犬の状態に応じて考えます。
判断材料になるのは年齢だけではありません。これまでにかかった病気、親犬や近親犬の健康情報、現在の症状や健康状態、過去の診察や検査で指摘された異常なども重要です。
例えば、心雑音を指摘されている犬と特に異常がない犬では、今後必要になる検査が同じとは限りません。目の異常や関節の問題など、過去に指摘された内容によって追加の検査が検討される場合もあります。
そのため、「ゴールデンレトリバーなら年に何回、必ずこの検査を受ければ安心」と一律の基準を作るのではなく、愛犬の情報を獣医師と共有しながら健診内容を考えることが重要です。

ゴールデンレトリバーでは、がん・腫瘍をはじめ、色素性ぶどう膜炎や甲状腺機能低下症、大動脈弁下狭窄症など、犬種との関連を考慮したい病気があります。
一方、股関節・肘関節の病気や胃拡張・胃捻転症候群など、大型犬として注意したい健康問題もあります。すべてを「ゴールデンレトリバー特有の病気」「必ずかかる病気」と考える必要はありません。
日頃から愛犬の体や行動を観察し、普段との違いを把握しておきましょう。突然倒れる、呼吸が苦しい、腹部が急に膨らむなど急な異変があるときは、病名を自己判断せず速やかな受診が必要です。
また、DNA検査を利用できる遺伝性疾患がある一方、股関節形成不全などDNA検査だけでは判断できない病気もあります。生活管理だけでは防げない病気についても、適切な健康管理と診察を通じて早期発見につなげることが大切です。